メルボルンからクルマで南西へ二時間、
湾沿いにモーニントン半島先端の海を目指して走る俺達。
メルボルン市街地を品川あたりだと例えると、
千葉の富津や館山あたりにある釣り場に向かっているのだ。
ポートフィリップ湾は、本当に東京湾に似ている。


CM撮影を終えて、日本人とオーストラリア人の
即席釣りチームになった我らスタッフを待っているのは、
レンタルロッドも完備した本格的なチャーター船だ。
カジキか、キングフィッシュか。
世界を釣り上げる瞬間を前に胸が高鳴る。


隊長である俺はもちろん勝負服。

昨年のアンデス山脈登頂から封印し続けていた
水曜スペシャル 川口浩探検隊シャツだ。
これを着た以上、幻の巨大魚を釣らずに帰国などできない。

港まであとわずか。 ボルテージ最高潮の我々に、

船長から不吉な連絡が入った。

「わるいけど、もう出港するわ ハバ グッダイ」


確かに、昼飯がうますぎて、量がありすぎて、
30分ぐらい遅刻してる俺達。
だけどチャーターなんだからさあ‥。
なんでも、同乗することになった常連が騒ぎ出したようだ。
そんなの聞いてないよ‥。

一気に最低まで下がるモチベーション。


思いもよらない船長の裏切りにより、
釣り道具も船もないまま、海に着いてしまった俺達。
とりあえず閉まりかけている釣具屋に駆け込むと、
20ドル約1500円の子供釣りセットと、
冷凍イカをエサとして購入。

安っぽいブルーで統一されたロッドとリール。
こんなんで幻の巨大魚とやりあえるのだろうか‥。


しかも、絶望的なのはタックルだけではない。


すぐそこには南極海がある、南の最果ての漁港‥

冒険を求めて川口隊長シャツで乗り込んだそこは、
実はなんともトロピカルな楽園の海だった。


遠浅の海はエメラルドブルーに輝き、
地元の子供達や水着姿のオージー達が遊びまくっている。
こりゃ、釣れるはずがない。釣りをする海じゃない。

地元のクソガキども、いやムジャキな少年達も、

釣れねーよーとはやしたてる。ああ、ブルーマリーン!


ここの南国ムードにはまるで相応しくない、
老人と海ムードな翁に着いて長い桟橋を沖まで歩く。


彼の使い混まれた釣竿に対して、
観光客気分前回のカラフルロッドが恥ずかしい。


かなり歩いて桟橋の先端。

小さく千切った冷凍イカを針につけると、
とりあえずぶん投げてみた。糸ふけをとってビール。
ひと巻きしてビール、ビール、ビール、ビール。


キレイな海を見ながらビールを飲んだ日、

って今日の日記には書くんだろうな‥

なんて思っていたのだけど、 さすがだな、俺。


子供だましの仕掛けでフラットヘッドを2匹ゲット!
一匹は地元釣り師も大騒ぎのグッドサイズだった。
開高さん、松形さん、児島さん、そして川口隊長、

俺も世界を釣りましたよ。



フラットヘッド。
どっからどう見ても、マゴチだけどね。


機内一泊滞在三日のオーストラリア仕事を終えて帰宅。

やはりメルボルンは本当に好きな町だ。

リタイアして、ここで生きるってのもありだな、

なんてマジで考えてみたりするハードダイズであった。